合格率が低い資格を見て、「受けてもほとんど落ちるのか」と感じることがあります。けれども、試験の合格率を、そのまま自分のくじの当選確率のように読むことはできません。
試験では、学習によって身につけた知識や技能が判定の対象になります。準備を進めれば、合格基準に届くための力を伸ばせます。ただし、学習時間を増やした分だけ、本人の合格確率が一定の割合で上がると計算できるわけではありません。どんな力をどこまで伸ばせばよいかは、試験の合格基準によっても変わります。
くじの10%と、試験の10%
ここでは、説明のために同じ10%という数字を使います。実在する試験や宝くじの実績ではありません。
| 場面 | 10%の意味 | 準備によって変わるもの |
|---|---|---|
| 同じ条件の1,000口から100口を公平に選ぶ抽選 | 各口の当選確率は10% | 抽選の仕組みが同じなら、勉強や練習でその1口の当選確率は変わらない |
| 1,000人が受験し、100人が合格した試験 | その回の受験者全体の合格率は10% | 学習によって、解ける問題や実行できる作業が増えうる |
抽選の例では、すべての口を同じ条件にそろえています。一方、試験の1,000人には、初めて出題範囲を学ぶ人も、何年も実務を経験した人も、十分に準備した人も含まれます。その全員に、一律10%の合格確率が割り当てられていたわけではありません。
宝くじなら「1口の当選確率」と「複数口を持つ人の当選確率」も別です。マラソン大会には優先枠や再抽選もあるため、現実の抽選倍率をそのまま確率に読み替えられるかは、募集方法を確認する必要があります。抽選倍率の読み方は、別の記事で詳しく説明しています。
分母は「割った数」、母集団は「知りたい対象全体」
合格率の計算が「合格者数÷受験者数」なら、割る側の受験者数が分母です。申込者数で割れば、試験を欠席した人も含む別の割合になります。
母集団は、統計で知りたい対象の全体を指します。たとえば「ある年度の大学卒業者全体の就職状況を知りたい」なら、その卒業者全体が母集団です。そのうち実際に調べた一部の人たちは、標本と呼びます。分母と母集団は、いつも同じものではありません。
その回の受験者を全員数えた合格率であっても、来年受ける自分の見込みを直接表すとは限りません。試験範囲、自分の準備、受験者の構成が違うからです。就職率の記事では、調べる対象と割合の分母を分けて読む例を紹介しています。
絶対評価なら、他人より上かよりも基準に届くか
絶対評価は、あらかじめ定めた到達基準に照らして判定する考え方です。仮に「各科目で一定の基準点を超えること」が条件なら、自分より高得点の人が多くても、自分がすべての条件を満たせば合格できます。
ただし、合計点だけを見ればよいとは限りません。総合点のほかに科目別の最低点がある試験や、実技で一定の欠陥があると不合格になる試験もあります。苦手科目や作業のミスを、得意科目の点数で埋められないことがあります。
たとえば、IPAのITパスポート試験は総合評価点と分野別評価点、基本情報技術者試験は各科目の評価点に基準を設けています。いずれもIRTという方法で評価点を算出するため、「正解した問題の割合」と評価点を同一視することもできません。IPA「試験要綱」PDF 22〜24ページ、採点方式・配点・合格基準
学習の目標は、他の人が勉強した時間を超えることよりも、必要な分野を理解し、試験の条件のもとで基準に届く状態をつくることになります。
相対評価なら、周囲の得点との関係も入る
相対評価では、順位や得点分布など、他の受験者との関係を使って評価します。同じ素点でも、周囲の得点分布が違えば、集団の中での位置は変わります。
ただし、相対評価は、必ず「上位何人だけ合格」という意味ではありません。 平均点や標準偏差で得点を調整する方式と、募集定員まで順位で選ぶ方式は、分けて読む必要があります。公認会計士試験の論文式では、試験委員間・科目間の採点格差を調整するため、偏差値によって得点を算定すると説明されています。公認会計士・監査審査会「試験Q&A」Q36・Q38
ここでも、必要なのは他人の勉強時間を超えることとは限りません。試験が評価するのは、通常、費やした時間そのものではなく、答案や技能です。出発点、経験、勉強の内容が違えば、同じ時間でも到達度は異なります。
自分の答案でどの論点が不足するか、時間内に処理できるか、同じ条件の模試でどの位置にいるかを見直すほうが、時間だけの比較より学習課題を具体的にできます。模試の受験者と本試験の受験者も同じ集団ではないため、模試の順位は目安として使います。
勉強で変えられることを、合格基準から見つける
まずは、受験する年度・級・段階の公式基準を確認します。固定の基準点なのか、年度によって調整されるのか、得点分布を用いるのか。合計点以外の条件も確認します。
次に、初見の問題を制限時間内で解く、実技の手順を再現するなど、本番に近い条件で現在地を確かめます。一度解いた問題の答えを覚えていることと、初めて見る問題に対応できることは分けて考えます。
「合格率が低いから自分もその確率でしか受からない」と決める必要はありません。一方で、「これだけ勉強すれば必ず受かる」とも言えません。学習によって変えられる自分の到達度と、試験側の判定方法を組み合わせて、次に何を身につけるかを決める。そのために合格率と合格基準を一緒に読むのです。
資格ごとの違いは、掲載中の全資格試験の合格基準一覧で確認できます。固定基準、補正、得点分布の利用、非公表を区別し、公式資料へたどれるようにしています。