合格率が10%の試験と40%の試験があったとき、前者のほうが難しいとはかぎりません。 合格者数が受験者数に比例して決まっている試験では、合格率は問題の難易度ではなく運用の結果になるためです。 どちらに近いかは、人数の動き方から確かめられます。
考え方
受験者が増えたときに合格者も同じ割合で増えるなら、合格率は一定に保たれます。 逆に、受験者が増えても合格者数が変わらないなら、合格率は分母まかせで下がります。 そこで、試験ごとに log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰し、その傾きを見ます。
- 傾きが1に近い:合格者数が分母に比例していて、合格率はほぼ一定になります。
- 傾きが0に近い:合格者数が分母と関係なく決まっていて、合格率は分母で動きます。
傾きだけでは足りません。標準誤差(推定のぶれ)と R²(どれだけ説明できているか)、 そしてn(何回ぶんのデータか)を必ず一緒に見ます。n は6〜21しかないので、 小数第2位の違いを読む意味はありません。
結果
合格者数は受験者数に連動しているか
試験ごとに、log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰した傾き(弾性)です。 1に近いほど合格者数は分母に比例し、合格率は安定します。0に近いほど合格者数は分母と無関係に決まっています。 n は多くありません。年を説明変数に加えた回帰も併記していますが、 20系列のうち11系列は log(分母) と年の相関が0.8以上あり、分母の効果と時間の効果を分けて推定できません。 いずれも結果を記述したもので、合否の決め方そのものの証明ではありません。
藍の点が傾き、横棒は±2×標準誤差、塗りつぶしは R²≥0.7 の系列です。点線は傾き1(合格率が一定)を表します。 黄土の細い線と白抜きの点は、年を説明変数に加えたときに傾きが動く先です。目盛りの外に出る値は端に寄せています。
| 試験・分母 | 期間 | n | 傾き | 標準誤差 | R² | 年を入れた傾き(差) | 合格率の幅 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中小企業診断士 2次(受験者②) | 2016〜2025 | 10 | 0.95 | 0.03 | 0.99 | 1.01(+0.06) † | 17.6〜19.4% |
| 公認会計士(論文式受験者) | 2016〜2025 | 10 | 0.98 | 0.08 | 0.95 | 0.51(−0.47) † | 34.1〜37.2% |
| 公認会計士(願書提出者) | 2016〜2025 | 10 | 0.40 | 0.04 | 0.93 | 0.09(−0.31) † | 7.4〜11.2% |
| 宅建士(10月試験) | 2016〜2025 | 10 | 1.23 | 0.22 | 0.80 | 0.80(−0.43) | 15.4〜18.7% |
| 気象予報士 | 2016.01〜2026.01 | 21 | 1.18 | 0.15 | 0.76 | 0.83(−0.35) † | 4.1〜6.2% |
| 応用情報 | R3春〜R7秋 | 10 | 1.10 | 0.18 | 0.83 | 1.32(+0.22) † | 22.1〜28.5% |
| 税理士(合格者合計) | 2020〜2025 | 6 | 1.03 | 0.38 | 0.65 | 1.36(+0.33) † | 16.6〜21.7% |
| 税理士(5科目到達者) | 2020〜2025 | 6 | -0.42 | 0.17 | 0.60 | 0.61(+1.03) † | 1.5〜2.4% |
| 行政書士 | 2016〜2025 | 10 | 1.36 | 0.52 | 0.46 | 0.53(−0.83) † | 9.9〜15.7% |
| 弁理士 | 2016〜2025 | 10 | 0.95 | 0.48 | 0.32 | -0.44(−1.39) † | 6.0〜9.7% |
| 司法書士 | 2015〜2025 | 11 | 0.26 | 0.18 | 0.18 | 0.64(+0.38) | 3.9〜5.3% |
| 中小企業診断士 1次 | 2018〜2025 | 8 | 0.38 | 0.43 | 0.12 | -0.07(−0.45) † | 23.5〜42.5% |
| 社労士 | 2015〜2025 | 11 | -0.12 | 1.46 | 0.00 | -1.73(−1.61) | 2.6〜7.9% |
| 司法試験 | 2016〜2025 | 10 | 0.08 | 0.09 | 0.09 | 0.34(+0.25) | 22.9〜45.5% |
| 医師国家試験 | 2017.02〜2026.02 | 10 | 1.44 | 0.19 | 0.88 | 1.20(−0.24) | 88.7〜92.4% |
| 技術士 第二次 | 2016〜2025 | 10 | 1.06 | 0.59 | 0.29 | 0.67(−0.39) | 9.1〜14.6% |
| 技術士 第一次 | 2017〜2025 | 9 | 0.11 | 0.56 | 0.01 | 0.30(+0.19) | 31.3〜51.4% |
| 電験一種 二次 | 2016〜2025 | 10 | 0.71 | 0.71 | 0.11 | -0.25(−0.96) | 8.0〜31.7% |
| 電験二種 二次 | 2016〜2025 | 10 | 0.90 | 0.59 | 0.22 | 0.28(−0.62) | 13.5〜27.9% |
| 電験三種(年2回化のあと) | 2022上期〜2025下期 | 8 | -0.55 | 0.73 | 0.09 | -3.49(−2.94) † | 8.3〜21.2% |
年を入れた傾きは log(合格者数) ~ log(分母) + 年 の、分母側の係数です。 † は log(分母) と年の相関が0.8以上で、分母の効果と年の効果を分けて推定できない系列です (20系列中11系列)。 傾きが動いたという事実までは言えますが、動いた先の値をそのまま読むことはできません。
- 中小企業診断士2次は傾き0.95(SE 0.03、R² 0.99)です。受験者が4,279人から8,757人へ約2倍になっても、合格率は17.6〜19.4%に収まっています。ただし公表されている合格基準は得点による絶対基準なので、この結果から相対評価が行われているとは判断できません。
- 公認会計士は分母で結論が変わります。論文式受験者を分母にすると傾き0.98(R² 0.95)で、合格率は34〜37%とほぼ一定です。願書提出者を分母にすると傾き0.40になります。出願者の増加は短答式の段階で吸収されており、最終合格率の低下(10.8%→7.4%)は論文式が難化した根拠にはなりません。
- 司法試験は傾き0.08(SE 0.09、R² 0.09)で、20系列でもっとも0に近い値です。受験者は2016年6,899人から2025年3,837人へ44%減りましたが、合格者は1,583人から1,581人とほとんど変わっていません。合格率22.9%→41.2%の上昇は、ほぼ分母の減少によるものです。
- 司法書士は傾き0.26(SE 0.18、R² 0.18)です。受験者は17,920人→11,494人→14,418人と大きく動きましたが、合格者は595〜751人に収まりました。2019→2020年の合格率上昇(4.4%→5.2%)は、合格者数ではなく分母の減少によるものです。
- 宅建士・気象予報士・応用情報は傾き1.1〜1.2(R² 0.76〜0.83)です。合格者は受験者にほぼ比例し、合格率の年ごとの変動は±1〜2ポイント程度にとどまります。宅建士の傾きが1を超えるのは、合格率が10年で15.4%→18.7%へ上がったこと(時間トレンド)を含むためです。
- 医師国家試験は傾き1.44(SE 0.19、R² 0.88)ですが、受験者数の幅は9,618〜10,336人で7%しかありません。分母がこれだけ動かない系列では、傾きの値そのものを読む意味は薄くなります。合格率は88.7〜92.4%の範囲です。
- 行政書士・弁理士・中小企業診断士1次・社労士・技術士第一次・電験の各系列はR²が0.5未満で、合格率の変動を受験者数ではほとんど説明できません。標準誤差が傾きと同程度かそれ以上の系列もあり、符号を読むこともできません。
- 年を説明変数に加えると、20系列のうち傾きがほとんど動かないのは中小企業診断士2次だけです(0.95→1.01、SE 0.05)。年の係数は−0.007(SE 0.005)で、受験者数を一定としたときの合格者数の年変化はほぼありません。「合格者数が受験者数に連動している」と言えるのはこの系列で、ほかは時間トレンドと分けられません。
- 宅建士の傾き1.23は、合格率が10年で15.4%→18.7%へ上がったこと(時間トレンド)を拾っていました。年を入れると0.80(SE 0.12)に下がり、年の係数は+0.026(SE 0.004)になります。受験者数を一定としても合格者数は年2.6%ずつ増えている勘定です。気象予報士も同じ向きです(1.18→0.83)。
- 司法書士と社労士は、年を入れると説明力が上がります(R²は0.18→0.89、0.00→0.52)。合格者数の動きは受験者数ではなく年で説明できます。司法書士の年の係数は+0.026(SE 0.004)です。ただし20系列中11系列は log(分母) と年の相関が0.8以上あり、分母の効果と年の効果を分けて推定できません。
- 税理士の5科目到達者は傾き−0.42(SE 0.17)です。受験者は2020→2025年で+36%(26,673→36,320人)ですが、到達者は648→527人と−19%でした。2023年度の受験資格緩和で増えたのは20歳以下・21〜25歳の層で(2023→2025年で計7,023→8,494人)、5科目に到達するには複数年かかるため、到達者数への反映は遅れると考えられます。確かめるには受験回数別のデータが要ります。
- 電験三種は2022年度に年2回になり、1回あたりの受験者の意味が変わったため、それ以前とつないでいません。年2回化のあとの8回で推定すると傾き−0.55(SE 0.73)ですが、標準誤差が大きく、傾きは読めません。
読み方
中小企業診断士 2次(受験者②)は傾き0.95(標準誤差0.03、R² 0.99)。 受験者が10年で大きく増減しても、合格率は17.6〜19.4%に収まっています。
ただし、ここから「上位から一定割合を採っている」とは言えません。 公表されている合格基準は「総点数の60%以上、かつ1科目でも満点の40%未満がないこと」という、得点による絶対基準です。 合格率がほぼ一定に収まっているという結果と、順位で採否を決めているという運用は別の話で、 前者から後者は導けません。このデータから言えるのは、結果として合格率が一定の幅に収まっている、 という事実までです。
公認会計士は、分母を変えると結論が変わる例です。 論文式受験者を分母にすると傾き0.98で合格率は 34.1〜37.2%とほぼ一定。 願書提出者を分母にすると傾き0.40で、合格率は 7.4〜11.2%まで動きます。 出願が増えたぶんは短答式の段階で吸収されています。 最終合格率が下がったことは、論文式が難しくなった根拠にはなりません。 どちらの段階で人数が減ったのかは、段階ごとの人数を見ないと分かりません。
司法試験は、傾きが0.08(標準誤差0.09、R² 0.09)で、 収録した系列でもっとも0に近い値です。この10回で、受験者数は 6,899人から3,837人へ 44%減りました。一方で合格者数は 1,583人から1,581人で、ほとんど変わっていません。 その結果、合格率は22.9%から41.2%になりました。 動いたのは分母のほうで、合格者の数え方が緩くなったことを示す数字ではありません。
社労士は R² が0.00で、合格率の動きを受験者数ではほとんど説明できません。 受験者数以外の何かで動いているという事実までは言えます。 それが問題の難易度なのか、基準の運用なのか、受験者の層の変化なのかは、このデータでは分かりません。
傾きが1に近く(±0.1)、説明力も高い(R² 0.9以上)のは 中小企業診断士 2次(受験者②)、公認会計士(論文式受験者)です。
言えないこと
- 傾きは結果を記述したもので、合否の決め方の証明ではありません。 合格基準を公表資料で確認できたのは宅建士・中小企業診断士で、いずれも得点による絶対基準でした (各試験のページに載せています)。ほかの試験は基準を確認できていません。 合格率が一定であることと、順位で採否を決めていることは、別の話です。
- n は6〜21です。年を説明変数に加えたモデルも併記していますが、 20系列のうち11系列は分母と年の相関が0.8以上あり、 2つの効果を分けて推定できません。動いたという事実までは言えますが、 動いた先の値をそのまま読むことはできません。
- 合格率が一定でも、受験者の層が変われば意味は変わります。 受験資格が緩和された試験(税理士の2023年度など)は、前後をつないで読めません。
人数の出どころは各試験のページに、確かめた結果はこちらにあります。