合格率が10%の試験と40%の試験があったとき、前者のほうが難しいとはかぎりません。 合格者数が受験者数に比例して決まっている試験では、合格率は問題の難易度ではなく、運用の結果になるためです。 国家資格20系列で、合格者数が分母にどれだけ連動しているかを調べました。 受験者数が大きく増減しても合格率が17.6〜19.4%に収まる試験がある一方で、 受験者数が44%減っても合格者数がほとんど変わらない試験もあります。
合格者数が分母に比例するかどうかを、傾きで見る
受験者が増えたときに合格者も同じ割合で増えるなら、合格率は一定に保たれます。 逆に、受験者が増えても合格者数が変わらないなら、合格率は分母の増減に左右されて下がります。 そこで、試験ごとに log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰し、その傾きを見ます。
- 傾きが1に近い:合格者数が分母に比例していて、合格率はほぼ一定になります。
- 傾きが0に近い:合格者数が分母と関係なく決まっていて、合格率は分母によって変わります。
傾きだけでは足りません。標準誤差(推定のぶれ)と R²(どれだけ説明できているか)、 そしてn(何回ぶんのデータか)を必ず一緒に見ます。n は6〜22しかないので、 小数第2位の違いを読み取る意味はありません。
20系列の推定結果
試験ごとに、log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰した傾き(弾性)です。 傾きが1に近ければ、分母の増減に対して合格者数も同じ割合で変化する傾向を示します。0に近ければ、分母の増減に対する合格者数の変化が小さいという推定です。 推定に使えるデータ数(n)は限られています。年を説明変数に加えた回帰も併記していますが、 20系列のうち10系列は log(分母) と年の相関が0.8以上あり、分母の効果と時間の効果を分けて推定できません。 いずれも結果を記述したもので、合否の決め方そのものの証明ではありません。
藍の点が傾きを表し、横棒は±2×標準誤差を表します。塗りつぶしの点は、R²≥0.7 の系列を示します。 点線は、傾き1(合格率が一定)を表します。 黄土の白抜きの点は、年を説明変数に加えた場合の傾きです。細い線で、年を加える前後の値を結んでいます。 目盛りの外に出る値は、端に寄せています。
| 試験・分母 | 期間 | n | 傾き | 標準誤差 | R² | 年を入れた傾き(差) | 合格率の幅 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中小企業診断士 2次(全科目受験者) | 2016〜2025 | 10 | 0.95 | 0.03 | 0.99 | 1.01(+0.06) † | 17.6〜19.4% |
| 公認会計士(論文式受験者) | 2016〜2025 | 10 | 0.98 | 0.08 | 0.95 | 0.51(−0.47) † | 34.1〜37.2% |
| 公認会計士(願書提出者) | 2016〜2025 | 10 | 0.40 | 0.04 | 0.93 | 0.09(−0.31) † | 7.4〜11.2% |
| 宅建士(10月試験) | 2016〜2025 | 10 | 1.23 | 0.22 | 0.80 | 0.80(−0.43) | 15.4〜18.7% |
| 気象予報士 | 2016.01〜2026.08 | 22 | 1.11 | 0.16 | 0.72 | 0.89(−0.23) † | 4.1〜6.2% |
| 応用情報 | R3春〜R7秋 | 10 | 1.10 | 0.18 | 0.83 | 1.32(+0.22) † | 22.1〜28.5% |
| 税理士(合格者合計) | 2020〜2025 | 6 | 1.03 | 0.38 | 0.65 | 1.36(+0.33) † | 16.6〜21.7% |
| 税理士(5科目到達者) | 2020〜2025 | 6 | -0.42 | 0.17 | 0.60 | 0.61(+1.03) † | 1.5〜2.4% |
| 行政書士 | 2016〜2025 | 10 | 1.36 | 0.52 | 0.46 | 0.53(−0.83) † | 9.9〜15.7% |
| 弁理士 | 2016〜2025 | 10 | 0.95 | 0.48 | 0.32 | -0.44(−1.39) † | 6.0〜9.7% |
| 司法書士 | 2015〜2025 | 11 | 0.26 | 0.18 | 0.18 | 0.64(+0.38) | 3.9〜5.3% |
| 中小企業診断士 1次 | 2018〜2026 | 9 | 0.28 | 0.41 | 0.06 | 0.25(−0.03) | 23.0〜42.5% |
| 社労士 | 2015〜2026 | 12 | 0.58 | 1.52 | 0.01 | -1.68(−2.25) | 2.6〜9.3% |
| 司法試験 | 2016〜2025 | 10 | 0.08 | 0.09 | 0.09 | 0.34(+0.25) | 22.9〜45.5% |
| 医師国家試験 | 2017.02〜2026.02 | 10 | 1.44 | 0.19 | 0.88 | 1.20(−0.24) | 88.7〜92.4% |
| 技術士 第二次 | 2016〜2025 | 10 | 1.06 | 0.59 | 0.29 | 0.67(−0.39) | 9.1〜14.6% |
| 技術士 第一次 | 2017〜2025 | 9 | 0.11 | 0.56 | 0.01 | 0.30(+0.19) | 31.3〜51.4% |
| 電験一種 二次 | 2016〜2025 | 10 | 0.71 | 0.71 | 0.11 | -0.25(−0.96) | 8.0〜31.7% |
| 電験二種 二次 | 2016〜2025 | 10 | 0.90 | 0.59 | 0.22 | 0.28(−0.62) | 13.5〜27.9% |
| 電験三種(年2回化のあと) | 2022上期〜2025下期 | 8 | -0.55 | 0.73 | 0.09 | -3.49(−2.94) † | 8.3〜21.2% |
年を入れた傾きは、log(合格者数) ~ log(分母) + 年 という式における、分母側の係数です。 † は、log(分母) と年の相関が0.8以上で、分母の効果と年の効果を分けて推定できない系列です (20系列中10系列)。 傾きが変化したという事実までは言えますが、変化した後の値をそのまま読み取ることはできません。
傾きが1に近い試験と、0に近い試験
中小企業診断士 2次(全科目受験者)の傾きは0.95です(標準誤差0.03、R² 0.99、n=10)。 受験者数が大きく増減しても、合格率は17.6〜19.4%に収まっています。
ただし、ここから「上位から一定割合を採っている」とは言えません。 公表されている合格基準は「総点数の60%以上、かつ1科目でも満点の40%未満がないこと」という、得点による絶対基準です。 合格率がほぼ一定に収まっているという結果と、順位で採否を決めているという運用は別の話で、 前者から後者を導くことはできません。このデータから言えるのは、結果として合格率が一定の幅に 収まっているという事実にとどまります。
公認会計士は、分母を変えると結論が変わる例です。 論文式受験者を分母にすると傾きは0.98で、合格率は 34.1〜37.2%とほぼ一定です。 願書提出者を分母にすると傾きは0.40で、合格率は 7.4〜11.2%まで変わります。 出願が増えたぶんは、短答式の段階で絞り込まれています。 最終合格率が下がったことは、論文式が難しくなった根拠にはなりません。 どちらの段階で人数が減ったのかは、段階ごとの人数を見ないと分かりません。
司法試験は、傾きが0.08(標準誤差0.09、R² 0.09)で、 収録した系列のなかでもっとも0に近い値です。この10回で、受験者数は 6,899人から3,837人へ 44%減りました。一方で合格者数は 1,583人から1,581人へと、ほとんど変わっていません。 その結果、合格率は22.9%から41.2%になりました。 動いたのは分母のほうで、合格基準が緩くなったことを示す数字ではありません。
技術士 第一次は R² が0.01で、合格者数の変動を受験者数だけではほとんど説明できません。 受験者数以外の何かが影響しているという事実までは言えます。 それが問題の難易度なのか、基準の運用なのか、受験者の層の変化なのかは、このデータでは分かりません。
傾きが1に近く(±0.1)、説明力も高い(R² 0.9以上)のは、 中小企業診断士 2次(全科目受験者)、公認会計士(論文式受験者)です。
そのほかの系列
- 宅建士(10月試験)(2016〜2025、n=10)の傾きは1.23(SE 0.22、R² 0.80)です。年を説明変数に加えると1.23→0.80(SE 0.12、R² 0.97)になります。対象期間の合格率は15.4〜18.7%です。この推定だけで、合格基準や受験者の構成が変わった理由は特定できません。
- 気象予報士(2016.01〜2026.08、n=22)の傾きは1.11(SE 0.16、R² 0.72)です。年を説明変数に加えると1.11→0.89(SE 0.28、R² 0.73)になります。対象期間の合格率は4.1〜6.2%です。分母と年の相関が強く、それぞれの効果を分けて解釈できません。
- 応用情報(R3春〜R7秋、n=10)の傾きは1.10(SE 0.18、R² 0.83)です。年を説明変数に加えると1.10→1.32(SE 0.38、R² 0.84)になります。対象期間の合格率は22.1〜28.5%です。分母と年の相関が強く、それぞれの効果を分けて解釈できません。
- 税理士(合格者合計)(2020〜2025、n=6)の傾きは1.03(SE 0.38、R² 0.65)です。年を説明変数に加えると1.03→1.36(SE 2.24、R² 0.65)になります。対象期間の合格率は16.6〜21.7%です。分母と年の相関が強く、それぞれの効果を分けて解釈できません。
- 税理士(5科目到達者)(2020〜2025、n=6)の傾きは-0.42(SE 0.17、R² 0.60)です。年を説明変数に加えると-0.42→0.61(SE 0.79、R² 0.75)になります。対象期間の合格率は1.5〜2.4%です。分母と年の相関が強く、それぞれの効果を分けて解釈できません。
- 司法書士(2015〜2025、n=11)の傾きは0.26(SE 0.18、R² 0.18)です。年を説明変数に加えると0.26→0.64(SE 0.09、R² 0.89)になります。対象期間の合格率は3.9〜5.3%です。この推定だけで、合格基準や受験者の構成が変わった理由は特定できません。
- 医師国家試験(2017.02〜2026.02、n=10)の傾きは1.44(SE 0.19、R² 0.88)です。年を説明変数に加えると1.44→1.20(SE 0.18、R² 0.93)になります。対象期間の合格率は88.7〜92.4%です。この推定だけで、合格基準や受験者の構成が変わった理由は特定できません。
- 電験三種(年2回化のあと)(2022上期〜2025下期、n=8)の傾きは-0.55(SE 0.73、R² 0.09)です。年を説明変数に加えると-0.55→-3.49(SE 0.52、R² 0.90)になります。対象期間の合格率は8.3〜21.2%です。分母と年の相関が強く、それぞれの効果を分けて解釈できません。
- 20系列中10系列で、log(分母) と年の相関の絶対値が0.8以上です。係数の変化は因果関係を示さず、標準誤差と対象期間を合わせて読む必要があります。
- 税理士の5科目到達者は当年の科目合格者と異なる集団です。受験者数との関係だけでは、同じ人が5科目に到達するまでの年数は分かりません。電験三種は実施回数が変更された前後を別の期間として扱います。
この分析で言えないこと
- 傾きは結果を記述したもので、合否の決め方の証明ではありません。 合格基準を公表資料で確認できたのは宅地建物取引士資格試験・中小企業診断士試験・司法書士試験・管理業務主任者試験・賃貸不動産経営管理士試験・マンション管理士試験で、いずれも得点による絶対基準でした (各試験のページに載せています)。ほかの試験は、基準を確認できていません。 合格率が一定であることと、順位で採否を決めていることは、別の話です。
- n は6〜22です。年を説明変数に加えたモデルも併記していますが、 20系列のうち10系列は分母と年の相関が0.8以上あり、 2つの効果を分けて推定できません。傾きが変化したという事実までは言えますが、 変化した後の値をそのまま読み取ることはできません。
- 合格率が一定でも、受験者の層が変われば意味は変わります。 受験資格が緩和された試験(税理士の2023年度など)は、緩和の前後のデータをつないで 読むことはできません。
人数の出典は各試験のページに示し、確認した結果はこちらにまとめています。