国家資格の合格率データ

合格率は「試験の難しさ」を表しているのか

受験者数が2倍になっても、合格率がほとんど動かない試験があります。合格者数と受験者数の関係を調べました。

公開:2026-09-23

合格率が10%の試験と40%の試験があったとき、前者のほうが難しいとはかぎりません。 合格者数が受験者数に比例して決まっている試験では、合格率は問題の難易度ではなく運用の結果になるためです。 どちらに近いかは、人数の動き方から確かめられます。

考え方

受験者が増えたときに合格者も同じ割合で増えるなら、合格率は一定に保たれます。 逆に、受験者が増えても合格者数が変わらないなら、合格率は分母まかせで下がります。 そこで、試験ごとに log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰し、その傾きを見ます。

  • 傾きが1に近い:合格者数が分母に比例していて、合格率はほぼ一定になります。
  • 傾きが0に近い:合格者数が分母と関係なく決まっていて、合格率は分母で動きます。

傾きだけでは足りません。標準誤差(推定のぶれ)と (どれだけ説明できているか)、 そしてn(何回ぶんのデータか)を必ず一緒に見ます。n は6〜21しかないので、 小数第2位の違いを読む意味はありません。

結果

合格者数は受験者数に連動しているか

試験ごとに、log(合格者数) を log(分母) に最小二乗で回帰した傾き(弾性)です。 1に近いほど合格者数は分母に比例し、合格率は安定します。0に近いほど合格者数は分母と無関係に決まっています。 n は多くありません。年を説明変数に加えた回帰も併記していますが、 20系列のうち11系列は log(分母) と年の相関が0.8以上あり、分母の効果と時間の効果を分けて推定できません。 いずれも結果を記述したもので、合否の決め方そのものの証明ではありません。

中小企業診断士 2次(受験者②)公認会計士(論文式受験者)公認会計士(願書提出者)宅建士(10月試験)気象予報士応用情報税理士(合格者合計)税理士(5科目到達者)行政書士弁理士司法書士中小企業診断士 1次社労士司法試験医師国家試験技術士 第二次技術士 第一次電験一種 二次電験二種 二次電験三種(年2回化のあと)−2−10123年を入れた傾き 1.01(SE 0.05)年を入れた傾き 0.51(SE 0.33)年を入れた傾き 0.09(SE 0.16)年を入れた傾き 0.80(SE 0.12)年を入れた傾き 0.83(SE 0.25)年を入れた傾き 1.32(SE 0.38)年を入れた傾き 1.36(SE 2.24)年を入れた傾き 0.61(SE 0.79)年を入れた傾き 0.53(SE 1.14)年を入れた傾き -0.44(SE 0.58)年を入れた傾き 0.64(SE 0.09)年を入れた傾き -0.07(SE 0.75)年を入れた傾き -1.73(SE 1.20)年を入れた傾き 0.34(SE 0.10)年を入れた傾き 1.20(SE 0.18)年を入れた傾き 0.67(SE 0.65)年を入れた傾き 0.30(SE 0.52)年を入れた傾き -0.25(SE 0.64)年を入れた傾き 0.28(SE 1.00)年を入れた傾き -3.49(SE 0.52)傾き 0.95(SE 0.03)傾き 0.98(SE 0.08)傾き 0.40(SE 0.04)傾き 1.23(SE 0.22)傾き 1.18(SE 0.15)傾き 1.10(SE 0.18)傾き 1.03(SE 0.38)傾き -0.42(SE 0.17)傾き 1.36(SE 0.52)傾き 0.95(SE 0.48)傾き 0.26(SE 0.18)傾き 0.38(SE 0.43)傾き -0.12(SE 1.46)傾き 0.08(SE 0.09)傾き 1.44(SE 0.19)傾き 1.06(SE 0.59)傾き 0.11(SE 0.56)傾き 0.71(SE 0.71)傾き 0.90(SE 0.59)傾き -0.55(SE 0.73)

藍の点が傾き、横棒は±2×標準誤差、塗りつぶしは R²≥0.7 の系列です。点線は傾き1(合格率が一定)を表します。 黄土の細い線と白抜きの点は、年を説明変数に加えたときに傾きが動く先です。目盛りの外に出る値は端に寄せています。

試験・分母期間n傾き標準誤差 年を入れた傾き(差)合格率の幅
中小企業診断士 2次(受験者②) 2016〜2025 10 0.95 0.03 0.99 1.01(+0.06) 17.6〜19.4%
公認会計士(論文式受験者) 2016〜2025 10 0.98 0.08 0.95 0.51(−0.47) 34.1〜37.2%
公認会計士(願書提出者) 2016〜2025 10 0.40 0.04 0.93 0.09(−0.31) 7.4〜11.2%
宅建士(10月試験) 2016〜2025 10 1.23 0.22 0.80 0.80(−0.43) 15.4〜18.7%
気象予報士 2016.01〜2026.01 21 1.18 0.15 0.76 0.83(−0.35) 4.1〜6.2%
応用情報 R3春〜R7秋 10 1.10 0.18 0.83 1.32(+0.22) 22.1〜28.5%
税理士(合格者合計) 2020〜2025 6 1.03 0.38 0.65 1.36(+0.33) 16.6〜21.7%
税理士(5科目到達者) 2020〜2025 6 -0.42 0.17 0.60 0.61(+1.03) 1.5〜2.4%
行政書士 2016〜2025 10 1.36 0.52 0.46 0.53(−0.83) 9.9〜15.7%
弁理士 2016〜2025 10 0.95 0.48 0.32 -0.44(−1.39) 6.0〜9.7%
司法書士 2015〜2025 11 0.26 0.18 0.18 0.64(+0.38) 3.9〜5.3%
中小企業診断士 1次 2018〜2025 8 0.38 0.43 0.12 -0.07(−0.45) 23.5〜42.5%
社労士 2015〜2025 11 -0.12 1.46 0.00 -1.73(−1.61) 2.6〜7.9%
司法試験 2016〜2025 10 0.08 0.09 0.09 0.34(+0.25) 22.9〜45.5%
医師国家試験 2017.02〜2026.02 10 1.44 0.19 0.88 1.20(−0.24) 88.7〜92.4%
技術士 第二次 2016〜2025 10 1.06 0.59 0.29 0.67(−0.39) 9.1〜14.6%
技術士 第一次 2017〜2025 9 0.11 0.56 0.01 0.30(+0.19) 31.3〜51.4%
電験一種 二次 2016〜2025 10 0.71 0.71 0.11 -0.25(−0.96) 8.0〜31.7%
電験二種 二次 2016〜2025 10 0.90 0.59 0.22 0.28(−0.62) 13.5〜27.9%
電験三種(年2回化のあと) 2022上期〜2025下期 8 -0.55 0.73 0.09 -3.49(−2.94) 8.3〜21.2%

年を入れた傾きは log(合格者数) ~ log(分母) + 年 の、分母側の係数です。 † は log(分母) と年の相関が0.8以上で、分母の効果と年の効果を分けて推定できない系列です (20系列中11系列)。 傾きが動いたという事実までは言えますが、動いた先の値をそのまま読むことはできません。

  • 中小企業診断士2次は傾き0.95(SE 0.03、R² 0.99)です。受験者が4,279人から8,757人へ約2倍になっても、合格率は17.6〜19.4%に収まっています。ただし公表されている合格基準は得点による絶対基準なので、この結果から相対評価が行われているとは判断できません。
  • 公認会計士は分母で結論が変わります。論文式受験者を分母にすると傾き0.98(R² 0.95)で、合格率は34〜37%とほぼ一定です。願書提出者を分母にすると傾き0.40になります。出願者の増加は短答式の段階で吸収されており、最終合格率の低下(10.8%→7.4%)は論文式が難化した根拠にはなりません。
  • 司法試験は傾き0.08(SE 0.09、R² 0.09)で、20系列でもっとも0に近い値です。受験者は2016年6,899人から2025年3,837人へ44%減りましたが、合格者は1,583人から1,581人とほとんど変わっていません。合格率22.9%→41.2%の上昇は、ほぼ分母の減少によるものです。
  • 司法書士は傾き0.26(SE 0.18、R² 0.18)です。受験者は17,920人→11,494人→14,418人と大きく動きましたが、合格者は595〜751人に収まりました。2019→2020年の合格率上昇(4.4%→5.2%)は、合格者数ではなく分母の減少によるものです。
  • 宅建士・気象予報士・応用情報は傾き1.1〜1.2(R² 0.76〜0.83)です。合格者は受験者にほぼ比例し、合格率の年ごとの変動は±1〜2ポイント程度にとどまります。宅建士の傾きが1を超えるのは、合格率が10年で15.4%→18.7%へ上がったこと(時間トレンド)を含むためです。
  • 医師国家試験は傾き1.44(SE 0.19、R² 0.88)ですが、受験者数の幅は9,618〜10,336人で7%しかありません。分母がこれだけ動かない系列では、傾きの値そのものを読む意味は薄くなります。合格率は88.7〜92.4%の範囲です。
  • 行政書士・弁理士・中小企業診断士1次・社労士・技術士第一次・電験の各系列はR²が0.5未満で、合格率の変動を受験者数ではほとんど説明できません。標準誤差が傾きと同程度かそれ以上の系列もあり、符号を読むこともできません。
  • 年を説明変数に加えると、20系列のうち傾きがほとんど動かないのは中小企業診断士2次だけです(0.95→1.01、SE 0.05)。年の係数は−0.007(SE 0.005)で、受験者数を一定としたときの合格者数の年変化はほぼありません。「合格者数が受験者数に連動している」と言えるのはこの系列で、ほかは時間トレンドと分けられません。
  • 宅建士の傾き1.23は、合格率が10年で15.4%→18.7%へ上がったこと(時間トレンド)を拾っていました。年を入れると0.80(SE 0.12)に下がり、年の係数は+0.026(SE 0.004)になります。受験者数を一定としても合格者数は年2.6%ずつ増えている勘定です。気象予報士も同じ向きです(1.18→0.83)。
  • 司法書士と社労士は、年を入れると説明力が上がります(R²は0.18→0.89、0.00→0.52)。合格者数の動きは受験者数ではなく年で説明できます。司法書士の年の係数は+0.026(SE 0.004)です。ただし20系列中11系列は log(分母) と年の相関が0.8以上あり、分母の効果と年の効果を分けて推定できません。
  • 税理士の5科目到達者は傾き−0.42(SE 0.17)です。受験者は2020→2025年で+36%(26,673→36,320人)ですが、到達者は648→527人と−19%でした。2023年度の受験資格緩和で増えたのは20歳以下・21〜25歳の層で(2023→2025年で計7,023→8,494人)、5科目に到達するには複数年かかるため、到達者数への反映は遅れると考えられます。確かめるには受験回数別のデータが要ります。
  • 電験三種は2022年度に年2回になり、1回あたりの受験者の意味が変わったため、それ以前とつないでいません。年2回化のあとの8回で推定すると傾き−0.55(SE 0.73)ですが、標準誤差が大きく、傾きは読めません。

読み方

中小企業診断士 2次(受験者②)は傾き0.95(標準誤差0.03、R² 0.99)。 受験者が10年で大きく増減しても、合格率は17.6〜19.4%に収まっています。

ただし、ここから「上位から一定割合を採っている」とは言えません。 公表されている合格基準は「総点数の60%以上、かつ1科目でも満点の40%未満がないこと」という、得点による絶対基準です。 合格率がほぼ一定に収まっているという結果と、順位で採否を決めているという運用は別の話で、 前者から後者は導けません。このデータから言えるのは、結果として合格率が一定の幅に収まっている、 という事実までです。

公認会計士は、分母を変えると結論が変わる例です。 論文式受験者を分母にすると傾き0.98で合格率は 34.1〜37.2%とほぼ一定。 願書提出者を分母にすると傾き0.40で、合格率は 7.4〜11.2%まで動きます。 出願が増えたぶんは短答式の段階で吸収されています。 最終合格率が下がったことは、論文式が難しくなった根拠にはなりません。 どちらの段階で人数が減ったのかは、段階ごとの人数を見ないと分かりません。

司法試験は、傾きが0.08(標準誤差0.09、R² 0.09)で、 収録した系列でもっとも0に近い値です。この10回で、受験者数は 6,899人から3,837人へ 44%減りました。一方で合格者数は 1,583人から1,581人で、ほとんど変わっていません。 その結果、合格率は22.9%から41.2%になりました。 動いたのは分母のほうで、合格者の数え方が緩くなったことを示す数字ではありません。

社労士は R² が0.00で、合格率の動きを受験者数ではほとんど説明できません。 受験者数以外の何かで動いているという事実までは言えます。 それが問題の難易度なのか、基準の運用なのか、受験者の層の変化なのかは、このデータでは分かりません。

傾きが1に近く(±0.1)、説明力も高い(R² 0.9以上)のは 中小企業診断士 2次(受験者②)、公認会計士(論文式受験者)です。

言えないこと

  • 傾きは結果を記述したもので、合否の決め方の証明ではありません。 合格基準を公表資料で確認できたのは宅建士・中小企業診断士で、いずれも得点による絶対基準でした (各試験のページに載せています)。ほかの試験は基準を確認できていません。 合格率が一定であることと、順位で採否を決めていることは、別の話です。
  • n は6〜21です。年を説明変数に加えたモデルも併記していますが、 20系列のうち11系列は分母と年の相関が0.8以上あり、 2つの効果を分けて推定できません。動いたという事実までは言えますが、 動いた先の値をそのまま読むことはできません。
  • 合格率が一定でも、受験者の層が変われば意味は変わります。 受験資格が緩和された試験(税理士の2023年度など)は、前後をつないで読めません。

人数の出どころは各試験のページに、確かめた結果はこちらにあります。

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